【有限責任監査法人トーマツ マネジャー 公認会計士 望月 威秀氏】
今回(第10回)は、日本基準とIFRS の減損会計(IAS 第36号)の違いについてご紹介します。
1.日本基準との差異
現行の日本基準とIFRS の減損会計における主な差異として、次の項目を挙げることができます。
1. 減損の兆候の評価
2. 減損の判定
3. 減損損失の計上
4. 将来キャッシュ・フローの予測
5. のれん及び耐用年数を確定できない無形資産の減損テスト
6. 減損損失の戻入
これらの項目について、個別にその差異内容と実務に影響を与えると思われる事項を述べていきます。
2.減損の兆候の評価
2.1 IFRSと日本基準の差異
IFRSでは、資産が減損している可能性を示す兆候があるか否かを評価する場合、企業は、外部の情報源により識別される兆候と内部の情報源により識別される兆候を考慮しなければならないと規定されています。
他方、日本基準もIFRSと概ね同様であるものの、資産の市場価格の著しい下落に関して、「少なくとも帳簿価額から50%程度以上下落した場合」との数値基準が設定されています。
2.2 実務に与える影響
IFRSでは数値基準がないため、日本基準において数値基準により減損の兆候に該当しないと判断している場合、IFRSに従った兆候の考慮が必要になります。
3. 減損の判定
3.1 IFRSと日本基準の差異
IFRSでは、資産は各報告期間末日現在で、減損している可能性を示す兆候があるか否かを評価しなければなりません。また、減損の兆候がある場合には、回収可能価額を見積るという、いわゆる1ステップ・アプローチが採用されています。
他方、日本基準では、割引前の見積将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回る場合、回収可能価額を見積り、減損損失が認識されるという、いわゆる2ステップ・アプローチが採用されています。
3.2 実務に与える影響
IFRSでは、減損の認識の判定に割引後キャッシュ・フローを用いるため、日本基準よりも減損を認識する可能性が高くなります。
4. 減損損失の計上
4.1 IFRSと日本基準の差異
IFRSでは、取得原価で計上されている資産に関する減損損失は、損失として認識されます。また、再評価モデルにより再評価額で計上されている資産に関する減損損失は、再評価の減額として処理されます。
他方、日本基準では、減損損失は損失として認識されます。なお、再評価モデルは認められていません。
4.2 実務に与える影響
IFRSにおいて再評価モデルを選択する場合には、減損損失の計上方法も修正が必要です。
5.将来キャッシュ・フローの予測
5.1 IFRSと日本基準の差異
IFRSでは、将来キャッシュ・フローの予測は、資産の残存使用年数にわたり存在するであろう一連の経済的状況に関する経営者の最善の見積りを反映する合理的かつ支持し得る前提を基礎としなければならないと規定されています。また、将来キャッシュ・フローの予測は、経営者により承認された直近の財務予算/予測を基礎としなければなりません。これら予算/予測を基礎とした予測は、より長い期間を正当化し得ない限り、最長でも5年間でなければなりません。 直近の予算/予測の期間を超えた将来キャッシュ・フローの予測は、その後の年度に対し、逓増率が正当化し得ない限り、一定の又は逓減する成長率を使用して、直近の予算/予測に基づくキャッシュ・フロー予測を推測延長することにより見積られなければなりません。
他方、日本基準では、将来キャッシュ・フローの見積期間は、資産の経済的残存使用年数又は資産グループの中の主要資産の経済的残存使用年数と20年のいずれか短い年数とします。
5.2 実務に与える影響
IFRSでは、予算に基づく将来キャッシュ・フローの予測は最長5年間、それを超える期間の予測は、一定の又は逓減する成長率を使用して上記予算を推測延長して見積ることとされており、日本基準において使用している将来キャッシュ・フローの見積方法を慎重に比較検討することが必要です。
6.のれん及び耐用年数を確定できない無形資産の減損テスト
6.1 IFRSと日本基準の差異
IFRSでは、のれん及び耐用年数を確定できない無形資産については、少なくとも毎年減損テストを実施しなければならず、回収可能価額の見積りが必要です。
他方、日本基準では、のれん及び無形資産についても、規則的な償却が行われます。また、減損の兆候がある場合、減損会計の対象にもなります。
6.2 実務に与える影響
償却費を振り戻し、代わりに少なくとも毎年減損テストを実施しなければなりません。
7.減損損失の戻入
7.1 IFRS と日本基準の差異
IFRSでは、回収可能額の算定に用いられた見積りに変更があった場合、過年度に認識された減損損失がなかった場合の帳簿価額(減価償却/償却を考慮)を限度として、回収可能価額まで戻入をすると規定されています。なお、のれんについては戻入が認められません。
他方、日本基準では減損損失の戻入は認められません。
7.2 実務に与える影響
IFRSでは、減損の戻入の要否について毎期検討を行う必要があり、固定資産管理システム上、減損前の帳簿価額(その後の減価償却費考慮後)データを維持することが必要です。
8.最新動向
資産の減損については、IASBの基準書の改訂に係るプロジェクト計画表に含まれていません。また、他方、日本基準でも特に改訂は予定されていません。
文中意見にわたる部分は執筆者の個人的な見解であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。