【有限責任監査法人トーマツ マネジャー 公認会計士 北潟 将和氏】
今回(第8回)は、日本基準とIFRSの無形資産(IAS38号)の違いについてご紹介します。
1.日本基準とIFRSの主な差異
現行の日本基準とIFRSの無形資産における主な差異として、次の項目を挙げることができます。
1.個別規定の存在
2.耐用年数の決定と見直し
3.開発費
4.再評価モデル
これらの項目について、個別にその差異内容と実務に影響を与えると思われる事項を述べていきます。
2.個別規定の存在
1.IFRSと日本基準の差異
日本基準では、ソフトウエア及び研究開発費に関連する会計基準は存在しますが、無形資産について包括的な基 準は存在しません。その結果として、無形資産として計上される支出の範囲について差異が生じる領域が存在します。また、有形固定資産と同様に、IFRSでは、IAS第23号(2007年3月改訂)「借入費用」において、適格資 産(※1)の取得に直接起因する借入費用を資産の取得原価の一部として資産化することが強制されています。
※1 意図した使用又は販売が可能となるまでに相当の期間を要する資産
2.実務に与える影
資産化される支出の範囲については、場合によってはIFRSでの無形資産の定義である識別可能性、資源に対する支配及び将来の経済的便益の存在に照らし合わせて考慮する必要がありますので、支出の対価として取得したものは何かということを十分に検討する必要があります。また特に、後述します開発費の処理につきましては、個別取得のケースと自己創設のケースに区分し、資産化の要否を決定するプロセスを整備する必要があります。
3.耐用年数の決定と見直し
1.IFRSと日本基準の差異
日本基準では、原則として経済的耐用年数により、償却期間が定められることになりますが、実務上、法人税法上の耐用年数表に掲げられる区分や各企業の実務慣行に従い決定されている場合が多いと考えられます。一方、IFRSでは、まず取得した無形資産の耐用年数が確定できるかまたは確定できないかを査定し、もしその耐用年数が有限であれば、その耐用年数の期間、または製品あるいは構成する同様の単位の数を検討することとされています。耐用年数の決定に際しては多くの検討要素が例示されており、それらに照らし合わせ、実態に基づき決定される必要があります。IFRSでは日本基準と異なり、少なくとも各事業年度末において、耐用年数の見直しを要求しています。当該無形資産について、見積耐用年数が従来の見積と大きく相違する場合には、償却期間は、それに基づいて変更されなければなりません。
2.実務に与える影響
耐用年数の決定に当たっては、従来の法人税法上の耐用年数表を見て決定するというプロセスから、実態からの判断へと大きくシフトすることになるため、大きな影響があると思われます。導入準備の段階において判断過程とそこでの考慮要件を明確にし、導入後の実務に支障をきたすことのないような準備が必要になります。また、耐用年数が確定できない場合には、その状況が継続しているかの検討と減損テストが必要となることにも留意しなければなりません。耐用年数の見直しについては、耐用年数の見積に使用した前提が従来と大きく相違する場合には、変更が必要となるため、まずは見積りの前提としている事項について、必要に応じ文書化し、その状況に重大な変化の有無を把握することで対応が可能と考えられます。
4.開発費
1.IFRSと日本基準の差異
(i)内部創出研究開発費
日本基準では、研究開発費会計基準三において、研究開発費は、すべて発生時に費用として処理しなければならないこととなっています。一方IFRSでは研究費は発生した時点で費用として認識するものの、開発費については、一定の要件(具体的にはIAS38.57 に規定されている6項目)を満たした場合には、無形資産として認識しなければならないとされています。
(ii)個別取得
仕掛研究開発を個別取得した場合、日本基準では費用処理されることとなりますが、IFRSでは、その支払対価は当該資産に関連する、予測される将来の経済的便益が企業にもたらされる蓋然性についての期待値を反映するものであるため、資産の認識要件を常に満たすものと考えられ、資産計上されることとなります。
2.実務に与える影響
(i)内部創出無形資産
開発費については、一定の要件を満たす場合、資産計上しなければならないため、各企業で実施されている開発のプロセスと6項目の要件を満たすトリガーイベントは何であるかを把握する必要があります。また、資産計上額は当該トリガーイベント後に発生する支出の合計額とされているため、各開発プロジェクトごとの支出額管理を行う必要があります。また、償却の開始は販売開始時となり、それまでの期間においては毎期減損テストを実施する必要があります。
(ii)個別取得
日本基準では費用処理されていたものが資産計上されるため、個別の資産として認識するとともに、当該取得した仕掛中の研究開発投資に対する事後的な支出については(i)内部創出無形資産と同様に処理されることとなるため、各開発プロジェクトごとの管理も必要となります。また、個別取得した無形資産についても、償却開始前のものについては毎期減損テストを実施する必要があります。なお、企業結合により取得した仕掛研究開発については、企業結合会計基準が改訂されたことにより、IFRSとの大きな差異は解消されています。
5.再評価モデル
1.IFRSと日本基準の差異
IFRSでは、無形資産は当初の取得原価から減価償却累計額及び減損損失累計額を控除した価額で計上する方法(原価モデル)及び再評価実施日における公正価値から、その後の減価償却累計額及びその後の減損損失累計額を控除した額で計上する方法(再評価モデル)の選択適用が認められています。一方、日本基準では、再評価モデルの適用は認められていません。
2.実務に与える影響
日本でIFRS適用時に再評価モデルを採用する企業は例外的と考えられますが、仮に採用する場合には、定期的に無形資産項目を公正価値で再評価する必要があります。
6.最新動向
無形資産については、IASBの基準書の改訂に係るプロジェクト計画表に含まれていませんが、日本基準ではコンバージェンスの一環として2010年中に公開草案の公表及び最終の基準化を予定しています。無形資産での大きな差異となっている自己創設無形資産及び開発費の個別取得について、どのような内容に改正されるか十分留意する必要があると考えられます。
第9 回に続く
文中意見にわたる部分は執筆者の個人的な見解であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。