【有限責任監査法人トーマツ シニアマネジャー 公認会計士 石井 希典氏】
今回(第9回)は、リースに関する日本基準とIFRSの違いについてご紹介します。
1.日本基準とIFRSの主な差異
現行の日本基準とIFRSのリースにおける主な差異として、次の項目を挙げることができます。
1.ファイナンス・リースの具体的判定基準
2.リース資産計上における簡便的取扱い
3.実質的にリース取引が含まれているか否かの判断
これらの項目について、個別にその差異内容と実務に影響を与えると思われる事項を述べていきます。
2.ファイナンス・リースの具体的判定基準
1.IFRSと日本基準の差異
日本基準では、リース取引の分類において、フルペイアウトやノンキャンセラブル等の判断基準について、解約不能のリース期間中のリース料総額の現在価値が、見積現金購入価額の概ね90%以上であるかどうかといった「現在価値基準」や、解約不能のリース期間が経済的耐用年数の概ね75%以上であるかどうかといった「経済的耐用年数基準」などの数値基準を示しています。他方、IFRSではそのような数値基準はなく、また、所有権移転および所有権移転外の区分もなく、形式よりもあくまで経済的実態を重視してファイナンス・リースかオペレーティング・リースに分類します。IAS第17号10~11項にファイナンス・リースとして分類される状況の例が示されていますので、それらを考慮しつつ、資産の所有に伴うリスクと経済価値が実質的にすべて借手に移転するかどうかを検討することによりリースの分類を行います。
2.実務に与える影響
IFRS適用に際してリース取引の分類を行うにあたっても、実務的にはある程度の数値基準も必要となるでしょう。この場合、日本基準における数値基準をベースに判断することも考えられます。しかし、少なくとも画一的に数値基準のみで判断することは許容されず、数値基準を若干満たさない場合については、実質判断をもとに判断する旨をルールとして持つ必要があります。実質により判断した場合、日本基準でオペレーティング・リースとしているもので、IFRSでファイナンス・リースとなるリース取引があるか否かについて、事前に情報収集する必要があります。
3.リース資産計上における簡便的取扱い
1.IFRS と日本基準の差異
日本基準においても、原則としてすべてのファイナンス・リース取引について資産計上が要求されますので、基本的にはIFRS の規定とほとんど差異がないと言えます。しかし、日本基準では、例外的にいくつかの簡便処理を認めています。例えば、リース料総額が300万円以下の企業の事業内容に照らして重要性の乏しい少額リース取引や、リース期間が1年以内の短期リース取引については、オペレーティング・リース取引の会計処理に準じて、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を容認しています。また、日本基準では、リース取引開始日が「リース取引に関する会計基準」の適用初年度開始前の所有権移転外ファイナンス・リース取引については、その期首の未経過リース料残高をもって、あたかも期首に新規取得したかのように会計処理することが認められているほか、上記によらず、通常の賃貸借処理に係る方法に準じた会計処理を継続することも容認しています。
2.実務に与える影響
「リース取引に関する会計基準」の適用初年度において上記のような簡便処理を採用している場合には、適用初年度開始前の所有権移転外ファイナンス・リース取引についても、過去に遡って処理を見直す必要があります。したがって、IFRSが求める処理への修正に必要な過去のリース取引データが適切に収集できるかどうか確認しておく必要があります。また、少額リース取引等についても同様で、少なくともそれらが多数存在し累積すると重要な金額になることが予想される場合には、事前の準備が必要となります。
4.実質的にリース取引が含まれているか否かの判断
1.IFRSと日本基準の差異
法的に(契約上)はリースの形式を取っていないものの、一括または数回の支払に対応して、ある特定の資産の使用権を付与する契約を締結するケースが見られます。このような取引について、IAS第17号の適用対象とすべきかどうかを明確にするため、IFRSでは解釈指針「契約にリースが含まれているか否かの判断(IFRIC第4号)」が用意されていますが、日本基準にはこのような具体的基準や適用指針がないため、現状では殆どの場合においてリース取引としての会計処理は行われていないものと思われます。ある物品(サービス)購入契約の契約の実態を見たとき、(1)その契約の履行は特定の資産の使用に依存しており、かつ、(2)契約によりその特定資産の使用権が物品・サービス購入者に移転する場合には、その契約は実質的にリースを含んでいると解釈され、IAS第17号に従って、リース取引の分類及び会計処理が要求されます。
2.実務に与える影響
物品(サービス)購入契約に関して、それがリースの形をとっていなくても、ある特定資産またはその一部が実質的に企業の専用資産となるような契約内容である場合には、検討が必要となります。契約内容によっては従来の会計処理に少なからぬ影響を与えることもあるため、個別契約ごとに契約内容の実態を慎重に確認し、該当有無を検討すべき旨注意が必要となります。
5.最新動向
上述のように、現行のIAS第17号では、リースをファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類し、それぞれ異なる会計処理を要求していますが、これについては従来から、比較可能性の低下、分類に主観または恣意性が介入し取引を仕組む機会を与える、資産負債の定義から見て概念的な欠陥があるなど、様々な問題点があげられていました。これに対応するため同基準書の見直しに向けて、IASBはFASBと合同でリース会計についてのディスカッション・ペーパー(DP)を2009年3月に公表し、広く意見を求めてきました。
DPでは、主に借手の処理について、従来の「リスク・経済価値モデル」から、新たなリース会計のモデルとして「使用権モデル」を提案しています。これは借手によるリース物件の使用権の取得に着目したものであり、借手がリース資産の使用権を資産として計上し、リース料の支払義務を負債として計上することで、ファイナンス・リースやオペレーティング・リースといった区分なく、すべてのリース契約に対して単一の会計処理を適用することを可能にするものです。このモデルの適用範囲は、現行基準の適用範囲を基礎としており、資産の使用が借手に移転する全ての契約に適用されると考えられます。
DP公表後は、貸手の会計処理も検討され、ある事象に対しては認識中止アプローチを採用し、それ以外には履行義務アプローチを採用する「混合アプローチ」の方向で暫定合意しています。
今後は、2010年第3四半期には公開草案が公表され、2011年第2四半期に改訂基準書として公表される予定です。
第10回に続く
文中意見にわたる部分は執筆者の個人的な見解であり、執筆者の属する組織の公式な見解ではありません。