※ EPM(Enterprise Performance Management):企業がビジネス・パフォーマンスを測定、把握、管理するためのプロセス、方法論、評価指標、テクノロジを包含した概念。グループでの業績(経営)管理とほぼ同義に用いられる事が多い
櫻田 修一氏
マネージング ディレクター 公認会計士
株式会社ヒューロン コンサルティング グループ
今、マネジメントに求められるEPM:グループ業績管理
21世紀に入り企業活動のグローバル化は経済と資本市場の一体化を加速させ、ビジネスでは事実上世界は一体となったと言える。また昨年秋の金融危機に起因する世界規模での景気低迷で明らかなように、グローバルでの経済環境変化の伝播スピードも極めて早い。このような環境下で企業の経営者は業績を維持、向上させるために、現在の状況を素早く把握し、どの事業、どの地域、どのような領域に資源を投下すれば最も効果的にリターンつまりキャッシュを獲得できるか見極め、迅速な意思決定を行う必要がある。さらに投資効率を向上させるためのビジネス基盤の再構築や財務体質の改善による資本コストの引き下げも継続的に実行し、企業価値を高めていかねばならない。
IFRSの基本概念と業績管理
IFRSは単一の高品質でグローバルな基準として世界中の資本市場において使用されることを前提とし、現在及び将来の投資家や債権者を主要な利用者としている。彼らが必要とする情報は将来のキャッシュ生成能力の情報であり、現在または将来の企業価値情報である。このためIFRSは従来の取得原価モデルに公正価値(時価)評価の考え方を積極的に導入し、資産・負債の価値変動と将来のキャッシュ生成能力を重視した財務情報の開示を目的とする。このIFRSの基本概念は、前述の今日的なマネジメントが必要とする情報と本質的に一致する。マネジメントは過去の実績よりも経営資源を投下した結果として、将来の業績予測とその結果である企業価値がどのように変動するか、を意思決定の拠り所としているからである。
IFRS導入によるEPMの整備・推進ポイント
では実際にIFRSの導入によりEPM:グループ業績管理の仕組み を整備する際のポイントはどのような点にあるのか。
■損益ではなくまず資産・負債を業績管理の単位別に把握
IFRSにおける業績は主に(1)従来の取得原価モデルによる損益(2)減損による損益(3)公正価値評価による評価差額 から算定される。このためには損益に先んじて事業や製品・サービス(群)別等の業績管理を行う単位別に必要な個社・連結の双方で把握・管理できる仕組みを持つ必要がある。
■業績管理の最小単位 CGU(Cash Generating Unit)の定義
CGUとは「他の資産又は資産グループからのキャッシュ・インフローとは独立したキャッシュ・インフローを生成させるものとして識別される資産グループの最小単位(IAS36)」と定義され、減損の徴候を認識した場合、即座にこの単位で将来キャッシュフロー予測つまり製品・サービスの売上・コスト予測が実施できる最小単位となる。伝統的な部門別の業績・予算管理からキャッシュフローと紐付けられる資産・負債のグループの単位に管理メッシュの最小単位を変えていく必要がある。
■CGUを最小単位として業績管理=PDCAに必要な情報項目を連結ベースで定義・標準化する
業績管理は個社と連結グループとが連動してなされるものであり、その手段、扱う情報はグループで統一・標準化する。業績管理の最小単位であるCGUはグループで様々な経営情報を標準的に把握・収集できる最下層となる。グループ会計方針の統一はこれを会計基準・会計情報の側面から見たものである。
■実績把握だけでなく将来予測・公正価値(時価)評価を継続的に実施・把握できるツールを整備
減損会計のように実績の算定においても将来予測は必要であり、また公正価値評価による資産・負債の価値変動を将来に向けてシミュレーションできるツールの整備は必須となる。計画予測業務を定期的な予算編成・見込み作成から重点的かつ迅速な将来予測に変革していかなければならない。
EPM実現のためには経営情報・業務を統合・標準化したシステムの整備検討も必要となるが、その点は別の機会に譲りたい。
EPM推進の契機
EPMは2000年以降の会計コンバージェンスの推進に合わせ取り組むべきべきテーマであった。しかし多くの企業は四半期開示、J-SOX対応、度重なる会計基準の追加・変更に追われ十分な対応ができなかったのが実態である。IFRS導入は単に財務報告基準の変更のみならずEPM導入・推進の契機となりうる。2015年以降の強制適用まではまだ時間はある。グループ全体でのマネジメントのあり方を変革し、企業競争力を高めるチャンスと捉えるべきであろう。